小児がん情報ステーション

会員医療者ページ

診断と治療

造血細胞移植 

どのような治療ですか?

もともとは血液を作る基となる細胞(造血幹細胞)を患者さんに移植することにより造血の障害を正す治療です。用いられる細胞の種類から骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植の三つの方法があります。

血液には赤血球、白血球、血小板の三つの血球成分があります。それぞれに正常な産生ができなくなる疾患があり、その状態が薬剤などで改善せず、生命に関わる場合に造血幹細胞移植が適応となります。いわゆる貧血だけではなく白血球が障害される免疫不全症もこの治療で治癒が期待できます。

しかし、近年、造血細胞移植が最も多く行われている疾患は、貧血や免疫不全症ではなく、白血病などの治りにくい腫瘍です。その場合、第一の目的は造血能の回復ではなく、強力な治療(超大量の抗癌剤、全身の放射線照射など)による腫瘍の根絶であり、その結果として生ずる造血障害を造血細胞移植で救済するという考え方です。また、他人の造血幹細胞を用いる場合には、いわゆる拒絶反応に似た免疫的な反応(GVHD)が生じます。その免疫反応によって腫瘍が死滅する効果(GVL効果、GVT効果)を期待する場合もあります。

移植という手技自体は輸血と同じです。点滴のラインから血管内に骨髄液(末梢血幹細胞、臍帯血)がゆっくりと注射されます。そこから全身の骨髄に流れていって生着し、造血が開始されます。通常白血球、赤血球、血小板が回復し輸血が必要でなくなるまでの期間は2~4週間程度です。
その間は白血球がほとんどなくなり、感染に対して無防備となりますので、多くの場合いわゆる無菌室で治療が行われます。

同種移植と自家移植

先に述べたように造血細胞のソースとして骨髄、末梢血、臍帯血の三種類があります。また、移植を誰から行うのかという点からは、自分の骨髄(末梢血)を用いる自家移植と他人のものを用いる同種移植に分けられます。

自家移植は、主に難治性の小児固形腫瘍(神経芽腫など)に対して選択されます。自家移植はあらかじめ患者本人から採取し、凍結保存しておいた細胞を移植の前処置(大量化学療法、放射線療法)の後で患者に戻すものです。この場合、移植する細胞に腫瘍が混じっていないこと、移植する細胞が十分な造血能を有することが必要です。

同種移植は他人の骨髄、末梢血、臍帯血の造血幹細胞を用いる移植です。他人の造血幹細胞を移植するためには、両者で細胞の型が合っていなければなりません。この場合の型はABO型などの赤血球の型ではなく、HLAと呼ばれる白血球(全ての細胞)の型を指します。HLAには非常に多くの型があるため、血縁でない人とHLA型が合う確率はとても低く、まれな型をもつ場合にはその確率は何十万人に一人になります。兄弟姉妹においてHLAが一致する確率は一人一人について1/4になります。移植治療の進歩により、近年はHLAの一部が一致しないドナーからも移植が行われるようになってきました。しかしその場合には移植の危険は増すためドナーの選択には充分な検討が必要です。また、移植の緊急度、腫瘍の種類・状態などを考慮してどの移植細胞を用いるべきかが決定されます。

対象疾患

小児がんの中で通常の治療(化学療法、放射線照射、手術)で治癒の見込みが低く、造血細胞移植の成績が通常の治療に勝ると考えられる疾患が対象となります。

前処置

移植前に抗癌剤などを投与することを前処置と呼びます。もともとは他人の骨髄が患者に生着し増えることができるようにするための処置として「前処置」と呼ばれました。悪性腫瘍の造血細胞移植においては、生着のための処置というよりも腫瘍を死滅させるためのものであることが多いため「前処置」はやや不適当な言葉となっており、単に「大量化学療法」と呼ばれることもあります。

前処置に用いられる薬剤、放射線の目的は以下の二つです。
1) 患者の免疫能を失わせ(低下させ)移植する細胞を拒絶できなくする
2) 腫瘍を根絶する

小児がんに対する造血幹細胞移植に用いられる前処置は、全身への放射線照射(total body irradiation: TBI)の有無により、TBIレジメン、非TBIレジメンに分類されます。また近年では、前処置による腫瘍の根絶を主眼とせず造血細胞の生着とその後の免疫的な抗腫瘍効果をねらう骨髄非破壊的レジメン(いわゆるミニ移植レジメン)が用いられることもあります。

TBIレジメンでは通常全身照射あるいは全リンパ節照射が行われ、それに加えて腫瘍に応じた抗癌剤が併用されます。
非TBIレジメンでは抗癌剤のみで前処置が行われ、その代表的な薬剤としてはブスルファン、チオテパ、エンドキサン、メルファランがあげられます。これらの薬剤に加えて腫瘍に応じた他の抗癌剤が併用されます。

GVHD(Graft versus Host Disease:移植片対宿主病)

これは同種移植(他人からの移植)の際のみに生ずる病態です。
腎臓移植などで「拒絶反応」という言葉をお聞きになったことがあるかもしれません。拒絶反応は体が自分のものでないもの(異物)が入ってきたときに免疫の力でその異物を攻撃し、死滅させる反応です。この反応の主体となるのは免疫を司るリンパ球と考えられています。骨髄移植の場合、他人から移植された造血幹細胞から全ての血液が作られます。その結果としてリンパ球も他人のものに置き換わることになります。そこで新しく患者さんの中で増えたリンパ球にとっては患者さんの体全体が自己ではない「異物」と捉えられます。その状態が進めば体全体をリンパ球が攻撃し、それぞれの臓器を傷害することになります。この反応を移植片対宿主病(graft versus host disease: GVHD)と呼びます。

この反応を予防するためにHLA型の一致したドナーを選びますが、それでも多くの場合、検査ではわからない型の違いが存在するため、薬剤による予防/治療を行わないとGVHDを生じます。予防には免疫抑制剤であるタクロリムス、シクロスポリン、メソトレキセートなどが使われます。予防薬を用いてもGVHDが進行する場合、ステロイドなどによる治療が加えられます。近年の進歩した移植技術を用いてもGVHDは同種移植における致死的な合併症の一つです。

GVHDは移植早期に生ずる急性GVHDと移植後3ヵ月以上たってから生ずる慢性GVHDに分けられますが、両者は重なることも多く、明確に区別できるものではありません。

急性GVHDの症状としては、皮膚の発疹、発赤、水疱、剥離、大量の下痢、黄疸、肝障害の頻度が高く、重症度の指標とされています。その他に肺、舌、食道、胃などにも生じます。

慢性GVHDはいわゆる膠原病(自己免疫疾患)と共通する症状を呈します。頻度が高いものは皮膚、肝、肺、消化管、涙腺、唾液腺などですが、長年にわたり生活を障害し、一部は命を失う原因となります。

生着不全

私たちの体には、病原体などの外敵から身を守るための免疫機能が備えられています。自分でないもの(異物)が体内に侵入したことを認識すると、免疫機能が発揮され、異物を攻撃し、排除します。同種移植において、移植された造血幹細胞は、患者にとって異物と認識され得ます。患者の免疫機能により、移植された造血幹細胞が攻撃され排除されることを拒絶と呼んでいます。拒絶を含めて、移植された造血幹細胞が何らかの原因により、生着・造血できない状態を生着不全と呼びます。生着不全を生じないためには、条件いいドナー(HLA一致、移植細胞数など)を選ぶこと、適切な前処置を行うことが必要です。

造血幹細胞移植の合併症

造血幹細胞移植の治療中にはさまざまな合併症を生じ得ます。重篤な合併症では、移植治療の早期に致命的な結果に至ることもあります。


代表的な合併症: 前処置に伴う種々の臓器障害(口・のどの粘膜障害、消化管の粘膜障害、腎障害、肺障害、心不全など)、急性GVHD、白血球(好中球)が回復するまでの細菌・真菌(カビ)感染症、免疫が回復するまでのウィルス・真菌感染症、血管障害(肝静脈閉塞症:VOD、血栓性微小血管障害:TMA)、高血圧脳症・タクロリムス脳症・シクロスポリン脳症、など

晩期合併症

造血幹細胞移植から長期間を経過して発症する合併症もあります。重篤な合併症では、致命的な結果に至ることもあります。
代表的な晩期合併症:
不妊、慢性GVHD、成長障害(低身長)、頭髪が薄い、慢性の下痢、白内障、呼吸障害、歯の形成障害、二次性の発癌