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疾患別情報

乳児白血病

 

略語・別の呼び方は?

生後12か月未満の乳児期に発症する白血病の総称で、ここでは特に急性リンパ性白血病について述べます。急性リンパ性白血病は、英語表記であるacute lymphoblastic leukemia、あるいはacute lymphoid leukemiaを略してALL と呼ばれます。

どのような病気ですか?

ALLは、造血前駆細胞(ぞうけつぜんくさいぼう;未熟な血液細胞)の中でも未熟なリンパ球(白血球の成分のひとつ)に由来します。乳児ALLの場合、Bリンパ球に類似した性質を持つB前駆細胞型(Bぜんくさいぼうかた)がほとんどです。1歳以上のALLと比較すると、より未熟なBリンパ球に類似した性質を持ちます。乳児ALLでは、CD10という白血病細胞表面の目印(1歳以上のB前駆細胞型ALLの特徴のひとつ)が陰性であることがしばしばです。骨髄系前駆細胞(こつずいけいぜんくさいぼう)に類似した性質を持つこと、リンパ系の白血病細胞と骨髄系(特に単球系)の白血病細胞とが混在することもあります。
乳児ALLの白血病細胞では、11番染色体の上にある「MLL遺伝子」の異常を約80%に認めます。
白血病細胞は骨髄(骨の中にある血液細胞が造られる組織)で増殖するため、正常な血液細胞が造れなくなります。特に乳児ALLでは白血病細胞の増殖が速く、診断時の血液検査で白血球数が数十万/mm3以上に達することも珍しくありません。また、骨髄以外にも、肝臓、脾臓、リンパ節、脳・脊髄(中枢神経)、腎臓、精巣、皮膚などに浸潤(しんじゅん;白血病細胞が臓器にしみ込むようにひろがる)することがあり、その割合も1歳以上のALLの場合よりも多く見られます。

頻度は?

急性リンパ性白血病は小児がんで1番頻度の高い病気で、小児人口100,000 人におよそ3人の頻度です。その中で、乳児ALLは約5%を占めますが、本邦では年間でおよそ20~30例の新規発症があると推測されています。

原因は?

原因は明らかでありません。ただし、最近の研究により、乳児ALLでは白血病細胞が妊娠中の胎児期にすでに発生していることが明らかになってきました。また、乳児ALLの多くに見られるMLL遺伝子の異常は、トイポイソメラーゼII(Topo II)阻害剤という種類の抗がん剤の投与を受けた患者さんに発症することがある二次性白血病でも多く認めることが知られています。したがって、妊娠中に何らかの形で母体がTopo II阻害作用を持つ物質に暴露した結果、胎児の未熟なリンパ球の一部にMLL遺伝子の異常が生じ、その後、更に染色体や遺伝子の異常が蓄積した結果、白血病化することが推測されています。

生存率は?

約80~90%に完全寛解(顕微鏡など目に見えるレベルで白血病細胞が消失している状態)が期待されます。しかし、MLL遺伝子異常のあるタイプの予後は不良であり、完全寛解になった患者さんの約半数は再発し、長期生存率は約40~50%です。MLL遺伝子異常のないタイプの予後は良好であり、1歳以上のALLと同様約80%の長期生存率が期待できます。

どのように診断しますか?

骨髄穿刺(骨盤の骨などに針を刺して、注射器で骨髄液を吸引する検査)を行い、骨髄液の標本を顕微鏡で観察して診断します。骨髄液の一部を利用して、白血病細胞の表面にある目印(細胞表面抗原/マーカーと呼びます)や染色体・遺伝子の異常を調べます。特に、MLL遺伝子異常の有無は必須の検査です。また、腰椎穿刺(ようついせんし;腰の高さの背骨の隙間から針を刺して検査のための脳脊髄液を採取)により、中枢神経(脳や脊髄)への白血病細胞の浸潤の有無を調べます。

どのような治療が行われますか?

急性リンパ性白血病では、複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法と呼ばれる治療が行われます。予後の悪いMLL遺伝子異常のあるタイプでは、これまで本邦では完全寛解後に造血幹細胞移植を行ってきました。しかし、これまでの臨床研究の結果、造血幹細胞移植後に成長障害などの様々な合併症を起こしている実態が明らかになってきました。更に、MLL遺伝子異常のあるタイプであっても、診断時の月齢が高い(例えば6カ月以上)場合は、比較的予後が良いこともわかってきました。近年、海外の大規模な臨床研究の結果、これらの比較的予後の良い患者さんでは化学療法単独でも造血幹細胞移植を行った場合に匹敵する治療成績が得られることが分かってきたため、本邦でも移植適応を限定する試みがなされています。いずれにしても、乳児ALLの治療は発展途上であり、臨床研究に基づいた治療が行われるべきであると考えられます。
白血病に対する治療のほか、合併症対策も重要です。乳児ALLでは診断時の白血球数が非常に高値であることが多く、そのために脳梗塞や脳出血をきたすことがあります。また、治療開始後に急速に白血病細胞が破壊されることによって高尿酸血症や腎不全を引き起こすことがあります(「腫瘍崩壊症候群:しゅようほうかいしょうこうぐん」といいます)。したがって白血球数が高値の場合は、事前に交換輸血などを行うことも検討しなければなりません。また、感染症対策も非常に重要です。

2009年10 月28日更新 東京医科歯科大学大学院 発生発達病態学分野 富澤 大輔